コラム
デザイナー Yデザイン部
もう迷わない!Web業界で働く人のための知的財産権ガイド
このコラムでは、制作会社のデザイナー・ディレクターといったWeb業界で働く人を対象に、日々の業務に密接に関わる基本的な知識と、おすすめの学習リソースの紹介をご紹介していきます。
「知的財産権に興味はあるけれど、何を学べばいいかわからない」「知的財産権を学んだところで、自分の業務に活かせるのかわからない」という方は、必見!
目次
1.はじめに – なぜ今、Web業界で知的財産権の知識が必要なのか?
生成AIが急速に普及する現代において、Web業界で働く私たちにとって、知的財産に関する権利の知識はこれまで以上に重要になっています。フリー素材やAIが生成するコンテンツが本当に自由に使えるのか、線引きに迷った経験のある方は多いと思います。
私自身、様々な業務を通じて、著作権をはじめとする知的財産権は、Webサイト制作の現場で関係者の皆が安心して仕事を進めるための羅針盤だと感じています。
2.知的財産権を学ぶメリット
Web業界で働く人間にとって、「知的財産権」を学ぶことは、以下のような実務的なメリットやリスク回避につながります。
■著作権トラブルを防げる
納品物に他人の著作物が含まれていると、損害賠償を求められる可能性があり、社会的な信頼を損なう原因にもなります。
Webデザインにおいて使用する「ロゴ・写真・イラスト・フォント・動画・キャッチコピー」などの素材は、基本的に著作物であるという意識を持つことが大切です。
この意識があれば、フォトグラファー・イラストレーター・コピーライターへの依頼、商用利用可能な素材やフリー素材・生成AI素材などを使う際も、利用条件やライセンスを事前に確認する習慣が自然と身につきます。
結果として、無断使用によるトラブルや炎上、訴訟のリスクを回避することができます。
■自分の制作物を守れる / 契約書の意味が理解できる
自分の制作物が無断で転載・盗用されるのを防ぐために、契約時に制作物の著作権が誰に帰属するのかを、書面などで明確にしておくと、事前にトラブルを回避するための対策を講じることができます。これにより、不利な契約内容に気づき、自身やチームを守るための適切な判断ができるようになるでしょう。
■クライアントへの説明力が向上する
クライアントから「他社のロゴに似たデザインにしたい」「ネットで見つけたイラストが気に入ったので、作者はわからないけれどそのまま使いたい」といった要望があった際、「それは著作権上のリスクがあります」と明確な根拠を示して説明し、代替案をご提案できるようになります。
これにより、「安心して使える」「将来的な展開にも問題がない」成果物をご提供できるようになり、結果として、クライアントから信頼を得やすくなるでしょう。
3.知っておきたい知的財産権のキホン
法律用語は難しい言い回しが多く、苦手意識を持つ方も多いと思います。Web制作に関わる部分にフォーカスして、できるだけシンプルにご説明します。
3-1.「知的財産」と「知的財産権」の関係
初めに、「知的財産」と「知的財産権」の関係について説明します。
■「知的財産」とは?
「知的財産」とは、人間の創造的な活動から生まれたアイデアや創作物のことを指します。
たとえば、「IP」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
「IPビジネス」「IPコンテンツ」「キャラクターIP」などの形で使われることが多く、マンガ・アニメ・ゲーム・小説・キャラクター・音楽・映画といったエンタメ業界でよく登場します。この「IP」とは、”Intellectual Property”(知的財産)の略称です。
■「知的財産権」とは?
「知的財産権」とは「知的財産」を他人に無断利用されないように法的に保護するための権利です。具体的には「著作権」「意匠権」「商標権」「特許権」「実用新案権」などが含まれます。
3-2.Web制作に関わりの深い3つの権利
続いて「知的財産権」のうち、Web制作に関わりの深い、「著作権」「意匠権」「商標権」の3つ権利についてご説明します。
■「著作権」とは?
「著作権」は、「音楽・絵・文章・動画などの“作品(著作物)”の作者(著作者)の権利を守るしくみ」です。「実際に形にしたもの=作品(著作物)」が対象となります。
デザインのうち、グラフィックデザインは「著作権」で保護されるケースが多いです。
「著作権」は作品を作った時点で、自動的に著作者に著作権が発生します。「意匠権」や「商標権」などとは異なり、行政庁への登録手続きは必要ありません。
そのため、原則として著作物の利用には著作者の許可が必要です。著作者側も利用条件を意思表示したり書面で契約するなど、権利を管理することが重要となります。
「著作権」は著作者の方が亡くなられてから70年間は保護されることになっています。また、「職務著作」の条件を満たす場合には、「著作権」は作った個人の方ではなく、会社に帰属することもあります。
■「意匠権」とは?
「意匠権」は、「モノ(工業的に量産可能な商品や製品)のデザインを守る権利」です。
デザインのうち、プロダクトデザインやパッケージデザインなど工業系のデザインは「意匠権」で保護されるケースが多いです。
「意匠権」は「著作権」とは異なり、自動的には権利が発生しません。そのため、「意匠権」という権利を手に入れるためには、特許庁に出願して法律で定められた条件を満たしていると認められたうえで、「設定登録」される必要があります。
そして、「意匠権」を取得できると、他の人がそのデザインを模倣した商品や、類似したデザインの商品を勝手に売ったりすることを防ぐことができるようになります。
実は、意匠法は2020年(令和2年)4月1日に改正版が施工されています。なんと改正は130年ぶりとのこと。
この改正により、「意匠権」の対象に「画像」が追加されました。ここでいう「画像」が具体的に何を指すのかは、定義が難しい部分でもありますが、操作画面や表示画面などの画面デザインも「画像」に含まれるとされ、Webサイトやアプリについても、「意匠」として認められる条件を満たし、登録されることができれば「意匠権」を取得できる可能性がでてきました。
とはいえ、「意匠権」を取得するための条件は非常に厳しいのが現実です。
今後、Webサイトやアプリのデザインが「意匠権」を取得する事例が増加するのか、取得できるとすればどんな条件なのか、注目していきたいところです。
■「商標権」とは?
「商標権」は、「商品やサービス、屋号やブランドの名前やマーク(文字や図形、立体など)を守るための権利」です。
デザインのうち、ロゴマークは「商標権」で保護されることが多いです。
「商標権」も「著作権」とは異なり、自動的には権利が発生しません。
そのため、 「意匠権」と同様に、特許庁に出願し、法律で定められた条件を満たしていると認められたうえで、「商標登録」される必要があります。
商標が登録されると、競合他社が同じような商標を登録したり、勝手に使用したりすることを防げるようになります。模倣や無断使用を防ぐ手段として有効です。
「商標登録」は義務ではありませんが、自社の商品やサービスを保護し、企業の信用や利益を守るために、大きな役割を果たします。
「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」から、使用しようとしている名称が、他社に商標登録されていないかを事前に調べることができます。自社サービスやオリジナルのアプリを企画される際は、ご確認をおすすめします。
・商標を検索してみましょう – 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
https://www.jpo.go.jp/support/startup/shohyo_search.html
4.おさえておきたい!CCライセンス
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)は、デザイナーにとってはフリー素材サイトなどでよく見かけるおなじみのライセンスですが、初めて見る方には目的や仕組みが少しわかりにくいかもしれません。
CCライセンスは著作権と関わりのあるライセンスで、デジタル時代における著作権の新しいあり方として、著作物の利用を促進するために生まれた仕組みです。
著作権者と利用者の双方にメリットがあり、著作権者は「この条件なら自由に使っても構いません」と、自分の意図に合わせた利用条件を明示できます。
ライセンス条件は、マークや記号によって視覚的にわかりやすく表示されており、利用者も「どんな使い方ならOKか」がわかるので、条件に従って安心して作品を利用できます。
CCライセンスの種類は公式サイトからご覧いただけます。フリー素材をご利用される前に確認してみてください。
・クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
https://creativecommons.jp/licenses/
5.知的財産権を学ぼう! – 学習リソースの紹介
ここまで、Web制作に関わる知的財産権のお話をしてきましたが、もっと詳しく知りたいと思った方のために、おすすめの学習リソースをご紹介します。
また、本コラムを執筆するにあたり、参考にしたWebサイトのURLを、本コラムの最後に載せています。こちらも一緒に見ていただけると、もっと深く理解できると思いますので、ぜひご活用ください。
■AdobeCreativeStation
・初心者むけ、デザイン著作の基礎知識。デザイナーがしりたい、著作権・意匠権・商標権・知的財産権。ロゴ、写真、フォント、イラスト。<前編>
https://youtu.be/5bN-_YmX8sY?si=GQchBYjm3rTAkkhO
・初心者むけ、デザイン著作の基礎知識。デザイナーがしりたい、著作権・意匠権・商標権・知的財産権。ロゴ、写真、フォント、イラスト。<後編>
https://youtu.be/pVBerdSgptc?si=PJx-iCUHNIQdI1fT
Adobe公式チャンネルの「いろは」シリーズ内にあります。「弁理士」の松井宏記さんがクリエイターの「知りたい」ポイントを丁寧に解説してくれます。
ちなみに「弁理士」とは知的財産の専門家で、知的財産権に関する案件のみ扱います。弁理士さんに依頼すると、知的財産権に関する様々な手続きを代理で進めてもらえます。
一方、「弁護士」はあらゆる法律問題を扱うことができるので、弁理士としての開業も認められています。そのため、知的財産の案件を得意とする弁護士さんも存在しています。
■Web Designing
Web業界の皆さんにはおなじみの雑誌ですね。
連載の「知的財産権にまつわるエトセトラ」というコーナーでは、その時々に話題になった知的財産権に関するあれこれを、とてもわかりやすく解説してくれています。
「2023年12月号 Webビジネスの法律相談書」ではより専門的な知的財産権の説明やAIと著作権に関する情報が掲載されており、手元に置いておきたい一冊です。
■みんなのための著作権
著作権情報センター(CRIC)が提供する「著作権教育」に役立つWebサイトです。
もともとは児童生徒向けのコンテンツですが、ビジネス上でも知っておくと役に立つ情報がたくさん載っているので、著作権に初めて興味を持ったという場合には、ぜひご覧ください。
・みんなのための著作権
http://kids.cric.or.jp/
■僕と彼女と著作権
企業Webサイトとデジタルマーケティングの実践情報メディア「Web担当者Forum」に掲載されている著作権に関する漫画コーナーです。
漫画に出てくるキャラクターはWeb制作会社の社員という設定なので、私たちのようなWeb業界の人間にとっては、実際のお仕事で起こりうるケースがとても理解しやすいと思います。
・僕と彼女と著作権
https://webtan.impress.co.jp/l/6649
■モリサワ note編集部
フォントのライセンスについても、結構迷うことがありますよね。そんなフォントのライセンスについて、株式会社モリサワが法務担当者にインタビュー形式で質問しています。
使用用途が表でまとめられているので、視覚的にもわかりやすい記事となっています。フォントのライセンスについて知りたい方におすすめです。
・フォントのライセンスはわかりづらい? モリサワnote編集部が法務担当を突撃してみた
https://note.morisawa.co.jp/n/nd1ab06673e07
■知的財産技能検定
知的財産管理技能検定は厚生労働省による技能検定の1つです。合格者には「知的財産管理技能士」という国家資格が与えられます。より深く専門的に学びたい方は、まずは3級合格を目指し、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
・知的財産管理技能検定
https://www.kentei-info-ip-edu.org/
6.まとめ
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
冒頭でもお伝えしましたが、「知的財産権」について学ぶことは、業務上のリスクヘッジのためにとても大切です。
ちなみに、弊社の場合は以下のような対策をしています。
■有料素材サイトの利用
有料のストックフォトやイラスト素材を提供しているサイトと契約して、基本的にそちらの素材を使うようにしています。
■パートナー契約
オリジナルの写真やイラストが必要な時には、フォトグラファーさんやイラストレーターさんと個別に契約を結んで、写真やイラストを制作してもらっています。
■生成AIについて
画像制作や加工などデザインに生成AIを使う際には、利用規約がしっかりしているAdobeを使用しています。
■ガイドラインの確認
お客様には、ロゴなどのブランドガイドラインを必ず共有していただくようお願いしています。もしガイドラインがない場合には、ロゴを使う上での注意点を詳しく教えていただいています。また、特定のキャラクターIPを使ったWebサイトを作る際にも、ガイドラインを共有いただき、キャラクターの使い方を守り、イメージを損なわないように細心の注意を払っています。
まずは、Web制作に関わる私たち一人ひとりが、知的財産権についての知識を深めることが大切だと思います。できることから、少しずつでも取り組んでみてください。
【参考文献】
■特許庁
・知的財産権について
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/seidogaiyo/chizai02.html
・広報誌「とっきょ」Vol.44 意匠法改正について
https://www.jpo.go.jp/news/koho/kohoshi/vol44/07_page1.html
・画像を含む意匠の関連意匠登録事例集について
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/design/kanren_isho.html
・みんなの意匠権(PDF)
https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota-info/document/panhu/minnano_ishoken.pdf
・商標出願ってどうやるの?(PDF)
https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota-info/document/panhu/shutugan_shien.pdf
■文化庁
・海賊版対策情報ポータルサイト
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/kaizoku/index.html
・著作物を創作した場合の注意点(PDF)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/93726501_09.pdf
■政府広報オンライン
・知っておかなきゃ、商標のこと!商標を分かりやすく解説!
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202208/2.html
■公益社団法人著作権情報センター
・著作権Q&A
https://www.cric.or.jp/qa/index.html
■日本弁理士会
・知的財産権とは
https://www.jpaa.or.jp/intellectual-property/
■弁理士法人 井上国際特許商標事務所
・画面デザインの意匠登録とは? 意匠法改正の背景や具体例を紹介します
https://www.inoue-patent.com/post/screen-design
■弁理士法人 HARAKENZO
・画像デザインの活用
https://www.harakenzo.com/graphic/
■企業向けオンライン法律相談「Web Lawyers」
・アプリデザインにおける意匠権侵害について弁護士が解説
https://web-lawyers.net/appli_design/
■IP mag
・IP(知的財産)とは何かをわかりやすく解説!ビジネスでの活用メリットや事例も紹介
https://ipmag.skettt.com/detail/whats-ip
■日経XTECH – 北岡弘章の「知っておきたいIT法律入門」画像デザインの保護
(1)著作権だけで保護できる範囲は広くない
https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20061106/252596/
(2)特許権は新規性・進歩性のあるアイデアを保護する
https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20061117/254052/
(3)意匠権による保護ではパソコン用ソフトは対象外
https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20061129/255335/
(4)著作権,特許権,意匠権による保護を比較する
https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20061215/256981/
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