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コラム

デザイン部 デザイナー IW

ブランド・パーソナリティからひもとく企業のイメージづくり

東急ハンズのリブランディング

2022年10月、東急ハンズがカインズグループの一員として再スタートし、ブランドのリニューアルを実施しました。リブランディングにあたり、社名を「ハンズ」に変更し、企業のロゴマークも刷新したことが話題となりました。新しいロゴマークは、従来のモチーフとされていた「手」を踏襲し、一筆書きの細い曲線が特徴的なデザインに生まれ変わりました。ブランドムービーやグラフィック展開からは「ワクワク感」や「クリエイティビティ」、「遊び心」といったイメージが感じられます。

東急ハンズ

東急ハンズ

HANDS Logo
https://www.nendo.jp/jp/works/hands/

東急ハンズ

HANDS message
https://www.youtube.com/watch?v=tK-EWZXXl_I

1976年に創業した東急ハンズは、製品の大量生産、大量消費時代に対するアンチテーゼとして、「手」で自らのライフスタイルを創造してほしいという主張を掲げ、ロゴマークは、太いペンで書いたような手書き感のあるデザインでした。変更後のロゴマークについて、ネットやSNS上では、「イメージが新しくなった」「前の方がよかった」などの反応が見られ、ユーザーの受け止め方はさまざまのようです。

時代や市場の変化に合わせて、デザインを刷新することにより、イメージを変えようとする試みが行われますが、発信者側の企業が伝えたいイメージと、受け手であるユーザーが持つイメージが、必ずしも一致しない場合があります。
ブランドを人に例えて、どのような人格を持っているのか考えることで、ユーザーの共感をより得やすくなることがあります。ブランドに触れたときに、どのように感じてほしいか、どのような印象を持ってもらいたいのか、そのベースとなるのが、ブランドのパーソナリティです。今回のコラムでは、ブランド・パーソナリティという視点からブランドのイメージづくりについて見ていきたいと思います。

ブランド・パーソナリティとは?

そもそも、ブランド・パーソナリティとはどのような意味があるのでしょうか。
ブランド論の第一人者として知られる、デービッド・A. アーカー(David A. Aaker)は、
『ブランド論 無形の差別化をつくる20の基本原則』(ダイヤモンド社)で、ブランド・パーソナリティを次のように表現しました。

“そのブランドから連想される人間的な特徴の組み合わせ”

人間的な特徴とは、パーソナリティ上の特徴、「優しい」「明るい」「挑戦的」などといった人についての属性のことで、人間的な特徴の組み合わせは、いわゆる個性にあたります。個性的な人には、周囲とは違う雰囲気や独特の世界観があり、好印象や魅力を感じることも多いのではないでしょうか。人間にはさまざまな性格の人が存在するように、ブランドにもパーソナリティがあることで個性が生まれ、他のブランドと見分ける目安となります。
ブランド・パーソナリティは、人間的特徴を表す言葉でブランドを描写し、ブランドを擬人化する方法といえます。

ブランド・パーソナリティの類型化

ブランド・パーソナリティ

デービッド・A. アーカーの娘である、心理学・マーケティング分野の研究者ジェニファー・アーカーは、心理学の「Big Five」(人の性格を5つの要素の組み合わせで説明した理論)を応用し、ブランド・パーソナリティを5つの主要な因子に類型化しました。

  1. SINCERITY 誠実
  2. EXCITEMENT 興奮
  3. COMPETENCE 能力
  4. SOPHISTICATION 洗練
  5. RUGGEDNES 素朴

ブランド・パーソナリティ

※ブランド・パーソナリティ指標を参考に筆者作成

これらは、ブランド・パーソナリティを簡潔に表すブランド・パーソナリティ指標(BPS: Brand Personality Scale)と呼ばれています。例えば、「SINCERITY 誠実」は、堅実さやそのブランドが本物であること、「EXCITEMENT 興奮」は、エネルギッシュさや革新性といった項目が含まれます。パーソナリティは単独で存在するだけではなく、「誠実+能力」や「能力+洗練」など複数の特性を持ち合わせるブランドも存在します。

1.SINCERITY 誠実 (Patagonia)

Patagonia アクティビズム

Patagonia アクティビズム
https://www.patagonia.jp/activism/

Patagonia 「DON'T BUY THIS JACKET」

Patagonia 「DON’T BUY THIS JACKET」
https://www.patagonia.com/stories/dont-buy-this-jacket-black-friday-and-the-new-york-times/story-18615.html

Patagonia Online Shop

Patagonia Online Shop
https://www.patagonia.jp/product/mens-torrentshell-3l-rain-jacket/85241.html?dwvar_85241_color=FEBN&cgid=collections-rainwear-mens

2022年9月、環境に配慮したアウトドア用品メーカーのパタゴニアが、株式のすべてを信託団体と環境問題に取り組む非営利団体に譲渡したことが話題となりました。創業者のイボン・シュイナードは「地球が私たちの唯一の株主」と題する声明を公表し、企業として環境問題に取り組む真剣さが伝わってきます。
2011年、パタゴニアはブラックフライデーでの衣料品の大量消費をやめるよう訴えかける広告「DON’T BUY THIS JACKET(このジャケットを買わないで)」をニューヨークタイムズ紙に掲載しました。また、衣料品を長く愛着を持って使うことを推奨する「Worn Wear(着古した服)」プログラムでリペアサービスを展開し、ECサイトでは、商品が「どのように作られたのか」「どこで作られたのか」についてトレーサビリティに関する情報発信を行っています。自社で扱う製品とそれを使うユーザーに責任を持ち、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」という信念に基づいた実践を追求しています。

2.EXCITEMENT 興奮(Red Bull)

Red Bull

Red Bull
https://www.redbull.com/jp-ja/energydrink/kaisha

Red Bull Stratos

Red Bull Stratos
https://www.redbull.com/jp-ja/projects/red-bull-stratos

1980年代初め、タイで出会った栄養ドリンクに可能性を感じたディートリヒ・マテシッツは「レッドブル・エナジードリンク」を考案し、オーストリアで販売を開始。2021年に世界で販売されたレッドブル・エナジードリンクは98億400万本で、世界的なヒット商品となりました。「Giving Wings to People and Ideas(人とアイデアに翼を授ける)」というブランドメッセージで、目標を追い求める人や、スリルや冒険を求める人のためのエナジードリンクとしての地位を確立しています。
離れ技を売りとするエクストリームスポーツや、成層圏からのスカイダイビングに挑戦するプロジェクト「Red Bull Stratos」などの取り組みを通じて、エキサイティングなパーソナリティを強化。スポーツにおける感動や興奮の体験が、ブランドへの愛着に関連付けられています。このようにブランドが後援するイベント活動なども、パーソナリティに影響を及ぼします。

3.COMPETENCE 能力(Microsoft)

Microsoft

Microsoft

Microsoft
https://www.microsoft.com/ja-jp/

マイクロソフトは、「Windows」シリーズのOSをはじめ、WordやExcelなどのビジネスアプリケーションで世界的に大きなシェアを獲得したことが、ブランド価値の駆動力となっています。どのカテゴリーの製品を扱っているのかは、ブランド・パーソナリティに影響を及ぼす要因となりますが、同様に、最高経営責任者のアイデンティティもその一つに含まれます。
創業者のビル・ゲイツは、「Windows」シリーズを開発したプログラマーであり、コンピューターを世に広く普及させた実業家としても知られていますが、感染症対策や貧困問題、環境問題に取り組む慈善事業においてもリーダーシップを発揮しています。ビル・ゲイツのパーソナリティがマイクロソフトのパーソナリティに与える影響は少なくありません(2020年にはマイクロソフトの取締役を退任し、経営の第一線は退いています)。
例えば、スキルの習得に熱心で、目標を持って日々の仕事に取り組んでいる人が職場にいると、周りからあの人は「コツコツタイプ」「努力家」と認識されるように、物事の取り組み方や日頃の振る舞いも、パーソナリティの印象を左右します。ブランドのパーソナリティもそれにかかわるすべてのものに影響を受けます。

4.SOPHISTICATION 洗練(Apple)

Microsoft

Microsoft

Apple
https://www.apple.com/

素材の質感とディテールにこだわり抜いたプロダクトデザイン、革新的なユーザーインターフェース。多くのユーザーがApple製品に対して、クリエイティビティや洗練されたイメージを持っているのではないでしょうか。とりわけ、Apple製品をこよなく愛している人たちは、「Apple信者」と呼ばれ、発言や行動が常に注目を集めた創業者スティーブ・ジョブスのカリスマ性とも相まって、ユーザーのブランドに対する愛着や忠誠心がとても高いのが特徴です。
Apple製品を購入し、使用することは、自らの「クリエイティビティ」を表す自己表現の手段となっています。ユーザーとブランドとの間に、このような自己表現的価値の結びつきが生まれるブランドは、他社と大きな差異を作ることができます。

5.RUGGEDNES 素朴(リーバイス)

LEVI'S

LEVI'S

LEVI’S
https://www.levi.com/US/en_US/

リーバイスは、創業者リーバイ・ストラウスが、金鉱で働く人々のために、キャンバス地を使った丈夫なワークパンツを商品化したことに起源を持つブランドです。リーバイスのパーソナリティは、鉱夫に衣服を提供してきたという歴史や、丈夫で、耐久性が高いといったデニムの特徴に影響されるところが大きいといえます。リーバイスのパーソナリティは「RUGGEDNES 素朴」に当てはまりますが、広告で描かれているのは、都会的で、男性にも女性にも適しているという時代に合わせたユーザーイメージを訴求しています。

ブランド・パーソナリティとユーザーイメージ

人は自分と共通点を持つ人に親近感を覚えます。あるブランドに親近感を感じた場合、ブランドのパーソナリティは、そのユーザー自身のパーソナリティと似ていることが多く、ブランド・パーソナリティとそのブランドのユーザーイメージは同一視されます。
ユーザーイメージは、そのブランドを使用している典型的な使用者か、広告などで描かれる理想的な使用者に基づいていますが、ブランドのパーソナリティと使用者のパーソナリティが異なる場合もあります。リーバイスのようにブランド・パーソナリティを変えずに、ユーザーイメージを調節することで、時代に合わせたイメージの鮮度を保つことが可能になります。

東急ハンズのブランド・パーソナリティの変化

人は自分に似た考えを持つ人に親近感を感じ、理想的な存在に憧れを抱きます。ブランド・パーソナリティとは、ブランドの擬人化によって、顧客との関係を築こうとする試みです。そのためには、ブランドがユーザーにとってどのような存在であるべきかを考える必要があります。

LEVI'S

東急ハンズは、日曜大工やアウトドアを中心としたDIYをする40代以上の中高年をメインユーザーとし、そのブランド・パーソナリティは「刺激」と「素朴」が中心を占めていたと考えられます。
リブランディングにあたり東急ハンズが行ったのは、顧客が求めている価値を再確認することでした。顧客データを分析し、顧客に感じてほしい価値として「7つの価値」を定義しています。7つの価値とは「新しい文化の芽が見つかる」「クリエイティブが始まる」「ホンモノにこだわる」「わたしらしく毎日をつくる」「丁寧に暮らす」「季節を大切にする」「アガル楽しさに出会う」です。

これら「7つの価値」を実現するために、東急ハンズが行ったリブランディングは、次のように整理できるのではないでしょうか。

  • DIYの意味:日曜大工に代表される狭義のDIYから、「自分らしいくらしの創造」へと拡張
  • メインのユーザー層:「中高年」から「20代〜30代」へ若返り(実際にブランドのリニューアルを行う前から、20代〜30代の女性をターゲットにSNSを通じて、ブランドの認知向上を目的とした若年層へのコミュニケーションを積極的に行なっています)
  • パーソナリティ:新しく定義した価値とユーザー層に合わせるように、「刺激+素朴」から、クリイティブ志向の「刺激」重視に

パーソナリティの変更によって、これまでメインとされていたユーザー層は「自分は対象から外された」と寂しさを感じるかもしれません。そして、それが否定的な反応として出てくることも予想されます。
企業が存続・発展し続けるためには新しい顧客の創造が必要で、それが顧客の世代交代となる場合もあります。多くの人に知られた社名やロゴマークを変更するというのは、企業にとって、とても大きな決断だったと思います。時代の変化に合わせて、新たなパーソナリティに共感するユーザーとつながりを作ろうとする意志が、今回のロゴの刷新から感じられます。ブランドとユーザーがどのような関係を築いていくのか、今後の展開に注目したいと思います。

参考にした書籍

ブランド優位の戦略 顧客を創造するBIの開発と実践(デービッド・アーカー)
本コラムのブランド・パーソナリティの類型化とその事例については、David A. Aaker(1994)『ブランド優位の戦略―顧客を創造するBIの開発と実践』(ダイヤモンド社)第5章ブランド・パーソナリティを参照し、記事を作成しています。

参考にした記事

「新たなDIY文化の共創に向けて カインズと東急ハンズはパートナーへ」株式会社東急ハンズ
https://www.tokyu-hands.co.jp/news/20211222_hands_cainz_partnership_hp.pdf

「東急ハンズ 企業理念」HANDS
https://info.hands.net/company/statement.html

「ハンズ、新ロゴ発表。旧・東急ハンズ」Impress Watch
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1450697.html

「賛否呼んだハンズの新ロゴ 集約した7つの価値、裏にデータ分析」日経クロストレンド
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/02122/

「【共感をよぶアカウントを目指して】東急ハンズがInstagram活用で大切にしているコトとは?【2021/Instagram×EC・最前線③】」SMMLab
https://smmlab.jp/article/tokyuhands-interview/

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